2011年4月29日金曜日

コミットメントのとき

 15年くらい前、作家・村上春樹氏は、ユング心理学者・故河合隼雄氏との対談のなかで、このようなことを語った(正確な引用ではなく僕の記憶による大意です。詳しくは新潮文庫『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』を参照してください。あしからず)。

〈いままで僕は世のなかに対してデタッチメント(無関心)できたけれど、阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件を機に、コミットメント(関わること)でいこうと考えるようになった。〉

 コミットメントの姿勢が彼に『アンダーグラウンド』や『神の子どもたちはみな踊る』を書かせたのだった。

 今回の震災後、僕はしばしばこの“コミットメント”という言葉を思い出す。

 今週、僕と妻は連れだって、映画『ミツバチの羽音と地球の回転』を見にいき、憲法行脚の会主催の脱原発イベントを聴きに出かけた。いずれも、震災前には起こさなかったであろう行動だ。

『ミツバチの——』は、瀬戸内海で進む原発立地計画(上関原発)とそれに反対する祝島の住人の行動を軸に、スウェーデンにおける再生可能エネルギー転換の具体例を加えて構成されたドキュメンタリー映画。福島原発事故以前から一部で話題になっていたが、事故後に観客動員が増えて、追加上映も行われている。詳しくは公式HPを(↓)
http://888earth.net/index.html

 脱原発イベントのほうは、チェルノブイリ原発事故から25年の日(4/26)に合わせて開催されたもので、タイトルは〈いまこそ脱原発の道を歩もう〉。講談師・神田香織さんの講談『チェルノブイリの祈り』、経済評論家・佐高信氏のトーク、神田さん、佐高氏に社民党党首・福島瑞穂さんを加えた鼎談の3部構成になっていた。入場料は1000円。
 神田さんの講談はウクライナ人の原作によるもので、チェルノブイリ事故で消火活動にあたり被曝死した消防士とその妻の凄絶な物語。
 佐高さんは、20年ぐらい前に何度か原稿を依頼したことがあり旧知。久しぶりにナマの姿を見たが、相変わらず元気そうで、軽妙、辛口、やや過激すぎ。政治家や東電のていたらくを一刀両断しながらも、かつては東電にも骨のある経営者がいた話などもしてくれて勉強になった。
 話が逸れるが、佐高氏は「週刊金曜日」で“電力会社に群がった原発文化人25人”を告発・批判しているが、そこには文字通り、原発推進の発言をした人たちに加えて、電力会社がスポンサーをしたCMやイベントに出演した人たち(原発の是非については何も言ってない)までも挙げられて糾弾されている。僕はここで白状するが、その線でいくと、かつて某グルメ系雑誌でオール電化のタイアップページ(2ページ)の仕事を請け負い、原稿を書いた僕も同罪ってことになる。これは弱った、と記事を読んで一瞬当惑したが、自分の心に訊ねてみても後ろ暗いところはない。それは電力会社が提供したTVのお笑い番組に出ていた芸人などと同じ気持ちだろう。批判や糾弾も度が過ぎるとせっかくの毒が効かなくなると思うのだが、どうだろう?
 話は戻って、脱原発イベントのつづき。福島瑞穂さんは、会期中の国会の報告をした。党派を超えていまこそ原発と訣別する方向に動かないと、と力強く語って250人ほどの聴衆の喝采を浴びていたが、もともとがシンパばかりの集まりであることを思うと、少し寂しい気がした。
 イベントのなかほどには、当然のことのように、会場にカンパ袋が回された。そこで集められる義援金の行方も名言されぬままに。わずかな時間で15万円ものお金が集まったと報告があったが、僕(募金に協力せず)はこういう「狎れ」のようなものが、この手の集会を胡散臭くしているのだと思った。せっかくTVや新聞では知ることのできない貴重な情報に触れられるチャンスなのだから、もう少しフツーの人が参加できる配慮というか工夫をすればいいのに。

 脱原発イベントの帰りに「週刊金曜日」の増刊号を買った。書店で立ち読みくらいはしたことがあるが、この雑誌を買うのは初めてだ。
 巻頭に、ルポライター鎌田慧氏の文章があり、とてもわかりやすかったので、引用しておこう。
〈原発を動かしてきたのは、カネだった。カネ以外に、理想や夢や哲学が語られることはなかった。地域にどれだけのカネが落ちるか、それが受け入れの条件だった。農地も漁場も買収された。電力会社と国と県とが、カネにあかして原発の恐怖を圧し潰した。これほどカネまみれの事業はない。電源三法による「原発立地交付金」、周辺には「周辺立地交付金」、政府と電力の「毒まんじゅう」であり、モルヒネ注射。いったん引き受けると、「毒を食らわば皿までも」と増設に期待した。自治体の選挙には、電力とゼネコンとが一体となって、自民党の原発容認候補を推した。電力総連、電機連合、基幹労連などの関連産業の労組が原発推進、ナショナルセンター・連合も原発賛成、その支持政党の民主党も大賛成、与野党癒着、原発翼賛体制が恐怖の原発社会をつくった。〉(鎌田慧「わがうちなる原発体制」、週刊金曜日4/26臨時増刊号)
 
 鎌田氏は弱者の立場に拠ったルポルタージュを多く書いている。僕も一度会ったことがあるが、この上なく純粋で、まっとうな人物である。鎌田氏の著書には『原発列島を行く』(集英社新書)などがある。

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