2011年4月7日木曜日

花より先に菌の話

 今回の地震で震源地附近の海底の地盤は24mも東南東に移動したのだそうだ。驚くべきは、いまも移動が続いていること。どうりで余震が多いわけだ。もともと日本とハワイの距離は年間3㎝ずつ縮まっていると聞いたが、一発で800年分も縮まったということか。

 放射能汚染や風評被害で将来的な品薄が心配される野菜や魚は比較的従来通り店頭に並んでいるのに対し、東京のスーパーなどでここ数日、手に入れるのが困難だったのはヨーグルトと納豆。牛乳はひと頃よりはるかに流通量が回復したが、関西から取り寄せたものなど、見たこともないパッケージが増えた。ヨーグルトが少ないのは原乳の不足が原因なのではなく、計画停電の影響。ヨーグルト製造には通常6時間程度、完璧に温度管理しなくてはならない工程があり(おそらく発酵)、停電があるとそれができないため、生産量が激減しているのだそうだ。もうひとつの納豆については、茨城県産の大豆の被曝……ではなくて、パッケージに使うフィルム(原材料とか内容量が記されたやつ)の工場が被災したため包装ができず、中身の納豆は造れるのに、商品として出荷することができないのだという。せっかく造った納豆の行方が心配になるが、食品衛生法上、表示フィルムのない製品を販売することはできないが、寄付することは問題ないとして、被災地の避難所などに届けられているらしい。
 ヨーグルトも納豆も人間の叡智が生み出した発酵食品であり(というよりも、微生物というこの星の支配者が生み出した食品というべきか)、健康にもよいとされるもの。毎日口にするのを習慣にしている人が多いものだから、これまた生活被災に違いない。夜のワインと同じくらい、朝のヨーグルトを習慣にしているわが家でも重大問題である。

 ここ数日、メディアでよく報じられているものに「災害弱者」の問題がある。被災地では強健な人でさえ、劣悪な環境とストレスに疲れ果てて弱るのに、乳幼児や老人、病人、心身に障害のある人びとなどは尚更である。たとえば自閉症の人はもともと感情を抑えるのが難しい。避難所のような環境ではふだんにも増して叫声を上げてしまったりする。家族は他の被災者への遠慮から、避難所に居づらくなり、さらに劣悪な場所へと移る。ある老人は集団生活に馴染めず、1週間で7箇所もの避難所を転々とすることになったという。幼子が夜泣くものだから、戸外に連れて出てあやす親が冷えて体調を崩す。
 阪神淡路大震災のとき、地震や火災では生き残りながらも、避難所で亡くなった人が約900人いたそうだ。そのうちの4人に1人が肺炎で命を落としたという。水が不足している避難所では満足に歯も磨けず、口をすすぐこともできない。もともとが疲弊しているところに口中の細菌が繁殖し、肺まで降りていって炎症を引き起こす。
 今回の被災地では、瓦礫の片づけに出る人のなかから破傷風が何人か出ている。菌が入った傷自体は指先のちょっとした傷にすぎないのだが、やはり抵抗力が極度に下がっているのだろう。これから、ばい菌たちが好む暖かい季節がやってくることを考えると、被災地の明日はまだまだ明るくない。

 桜前線がどんどん北上している。花見で元気を出そうという発想も悪くない。しかし、花は来年も再来年も咲くだろう。それよりも、いま、目をそらさずに見るべきものがあることを忘れてはならない。

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