2011年3月26日土曜日

起ちて咲く花



今日も都内は強い風が吹いている。空は晴れ。

午後、近くの林試の森公園にジョギングに出かけた。僕はこの公園で走るために、ここ下目黒に住んでいると言っていい。昼間走る日もあれば、夜走る日もある。その日の気分と体調に合わせて、走るコースもスピードも変える。石階段の上り下りをしたり、ぶら下がり器具で懸垂をしたり、ベンチで腹筋運動をする日もある。大小の木々や季節の花、芽吹き、紅葉、落葉、陽ざしや雲や小雨や夕日や月や星が僕を倦むことなく走らせてくれる。野良猫もカラスもヘビもカエルも甲虫も友だちだ。

何年もの間、鋼鉄の日課になっていた「林試走り」だったが、震災直後に途切れ、いまは数日置きになっている。地震から4、5日経った日の夕方、買い出しの帰りに公園に行ってみると、いつもは部活の高校生や犬の散歩で集う連中で賑やかな時間帯なのに、がらんとして見慣れぬ場所のようだった。芽吹きを控えた骨格標本のような木々の梢を黒雲が覆い、西の低空だけが陽の名残でオレンジに染まっていた。その空は3/11の夕方に仕事部屋の窓から見た空とよく似ていて僕は少し怖くなった。

2日ほど経った週末(震災から1週間後)の午後に、ちゃんと走るための格好で公園に行くと、そこにはいつもの賑わいが戻っていた。界隈の人たちはその数日のあいだにモードを切り換え、ある程度日常を取り戻すことにしたのだろう。

去年の落ち葉でふかふかになった周回コースで何本かダッシュをした後、まだもう少し走り足りない気がして、ごくゆっくりのジョギングに切り換えたとき、「そうだ、木蓮を探そう」と思い立った。林試の森はもともと都内の街路樹に相応しい樹木を選ぶために内外からいろいろな植物を取り寄せて植えた試験場である。いままで意識していなかったが、きっと木蓮やコブシもあるだろう。ほどなくして、中ぐらいの広場の一隅に白い花をたくさんつけた白木蓮の木を見つけた。昨日来の強風にもかかわらず、花はほとんど散っていない。乳白色の大きな花びらがやわらかく、しかし、りゅうとして立っている。その姿に思わず、句を詠んだ
〈起ちて咲く 花もくれんに 帽子とる〉

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